Web サイトの表示速度は、ユーザー体験や検索エンジンの評価に大きく影響するため、レンタルサーバー各社も速度向上に非常に力を入れており、独自の高速化機能を次々とリリースしています。
しかし、どの会社も「従来の●●倍!」と高速したことを謳っていますが、実際にその機能を利用したときに、どのサーバーが一番表示が速くなるのでしょうか。
当サイトで行っている定期計測では、できるだけ各レンタルサーバーそのものの力量を比較するために、あえて高速化機能などを使用せず、「素」に近い状態にしてデータを取り、以下のランキングにしてきました。
しかし、今回は各レンタルサーバーで利用可能な高速化機能を最大限に利用した場合に、WordPress でどれくらいの表示速度が出るのかを測定・比較してみました。
WordPress の表示速度調査実施概要
WordPress サイトの表示速度を調査するため、monitis というサービスを利用しました。
monitis はサーバーをモニタリングするための数多くのサービスを提供していますが、ここでは FullpageLoad という、ユーザーが実際にサイトの表示を行うのと同様の環境でサイトの読み込み完了までの時間をチェックできる機能を使用しています。
この機能で測定した、各サーバーにおける WordPress サイトの表示速度を比較します。
WordPress は、デザイン情報である「テーマ」、コンテンツ情報を含む「データベース」、画像などのデータを総合管理できるシステムですが、ユーザーからサイトを表示するリクエストがあるたびに、それらのデータを集め、サイトを構築し、データを送り返すという仕組みになっています。
そのため、サイトデータを送り返す Webサーバーだけではなく、WordPress を構成する言語である PHP やデータベースサーバーのパフォーマンスを含めた、レンタルサーバーの総合力が試されるシステムとも言えます。
そういう意味でも、WordPress の表示速度をチェックすることは、サーバーの真の実力を知ることにもつながる、と言っても過言ではないでしょう。
対象のサーバーと設定内容
今回比較しているのは、主に個人向けのサーバーの中でも人気があり、また新機能の導入にも積極的な高速化に力を入れている 7社のサーバーです。
サーバー名と利用した PHP のバージョンや高速化機能を以下の表にまとめました。
(※表中の各用語については、下に簡単に説明してあります)
サーバー名 (プラン名) |
PHP ver. &モード |
高速化機能 |
---|---|---|
エックスサーバー (X10/スタンダード) |
PHP 7.2 (FastCGI) |
Xアクセラレータ V2・ サーバーキャッシュ |
ColorfulBox (Box2) |
PHP 7.2 (LSAPI) |
LiteSpeed Cache |
heteml (ベーシック) |
PHP 7.1 (モジュールモード) |
– |
ConoHa WING (ベーシック) |
PHP 7.2 (LSAPI) |
コンテンツキャッシュ・ ブラウザキャッシュ |
ロリポップ! (スタンダード) |
PHP 7.1 (モジュールモード) |
WPキャッシュ |
mixhost (スタンダード) |
PHP 7.2 (LSAPI) |
LiteSpeed Cache |
さくらのレンタルサーバ (スタンダード) |
PHP 7.2 (モジュールモード) |
– |
※ロリポップ!と heteml は PHP のバージョン 7.2 が未対応のため、v7.1 で確認
・FastCGI:PHP を従来の CGI モードのままモジュール版と同等の速さに高速化できる機能
・Xアクセラレータ V2:「Webサイトの表示速度向上」+「同時アクセス数の大幅拡張」のエックスサーバー独自機能
・LSAPI (LiteSpeed Server Application Programming Interface)):FastCGI に似た、Web サーバーとのやりとりを効率的に行える高速でスケーラブルなサーバーインターフェイス
・モジュールモード:CGI モードより PHP を高速で処理できる機能
・LiteSpeed Cache:Webサーバー「LiteSpeed」で利用できる WordPress 用のキャッシュプラグイン
・コンテンツキャッシュ:サーバー側でコンテンツをキャッシュして高速表示する機能
・ブラウザキャッシュ:ユーザーのブラウザ側にコンテンツの一部をキャッシュさせて高速化表示する機能
・WPキャッシュ:サーバー側でコンテンツをキャッシュして高速表示するロリポップ!独自の機能
(※キャッシュ:一時的にサーバーなどにコンテンツを記録しておくこと)
測定条件の詳細
今回測定を行った環境や条件ですが、すべてのサーバーに全く同じ内容の WordPress サイトを構築しています。
以下が、その詳細条件です。
WordPress のバージョン | ver.5.0 |
---|---|
WordPress のテーマ | Twenty Nineteen |
WordPress プラグイン | WP Multibyte Patch / Akismet / Hello Dolly |
コンテンツ内容 | WPテーマユニットテスト (すべてのコンテンツをトップページに表示した状態) |
測定ツール | monitis 測定元サーバー(東京・新宿) |
測定期間 | 7日間(2019年3月中旬実施) |
測定内容 | WordPress サイトの表示速度 (20分ごとに計測を実施) |
測定状況の詳細 | 日本国内のサーバーから Webサイトの表示を要求し、サイトデータの 取得完了までの時間を計測 測定用ブラウザは Google Chrome を使用 コンテンツ内の特定の文字列が取得できるかもチェック |
プラグインに関しては、WordPress をインストールした際にデフォルトで導入されているもので、特に意味はありません。
ColorfulBox と mixhost の「LiteSpeed Cache」は、各社で提供しているものではありませんが、Web サーバーに「LiteSpeed」を利用しているサーバーでしか使えないことと、各社が公式に推奨していることから使用しました。
また、基本的に月額料金が 1,000~2,000円程度のプランを検証の対象としていますが、今回もロリポップ!・さくらインターネットに関しては、月額500円台の「スタンダード」プランを使用して検証しています。これは、全プランの中でもユーザー数が一番多いこと、上位プランよりも性能がいい、という 2つの理由からです。
WordPressサイトの最速の表示速度比較
では、WordPress サイトの表示速度を比較してみましょう。
チェックする項目は「平均表示速度」で、それを元に順位付けしています。
また、高速化機能をできるだけ使用せず、ノーマルの状態で計測したデータとその差分もあわせて掲載しました。
・サーバー別のWordPress表示速度を独自調査データで比較【2019年版】
サーバーの高速化機能を利用したWordPress最速比較
総合順位 | サーバー名 (プラン名) |
ノーマル (秒) |
高速化後 (秒) |
差分 (秒) |
---|---|---|---|---|
1 | エックスサーバー (X10/スタンダード) |
2.83 | 2.00 | +0.83 |
2 | ColorfulBox (Box2) |
3.04 | 2.47 | +0.57 |
3 | heteml (ベーシック) |
2.84 | 2.79 | +0.05 |
4 | ConoHa WING (ベーシック) |
2.14 | 2.87 | -0.73 |
5 | ロリポップ! (スタンダード) |
2.99 | 3.08 | -0.09 |
6 | mixhost (スタンダード) |
2.89 | 3.14 | -0.25 |
7 | さくらのレンタルサーバ (スタンダード) |
4.78 | 4.03 | +0.75 |
※無断転載禁止
差分を見るとわかるように、高速化機能の利用によって速くなったサーバー、ほぼ変わらないサーバー、逆に遅くなっているサーバーがそれぞれ見られます。
まず、heteml に関しては、ノーマルの計測時と条件が同じため(モジュールモード以外の高速機能がないため ※ 2019年6月下旬に「コンテンツキャッシュ」機能提供予定)なので、速度に変わりはなく、妥当なデータと言えます。
次に、高速化しているのは、エックスサーバー、ColorfulBox 、さくらのレンタルサーバの 3つ。特にトップのエックスサーバーは約 1秒近くも高速化しているのがわかります。
2位の ColorfulBox も、ノーマル状態では他社に遅れをとっており、6位にとどまっていましたが、高速化プラグインである「LiteSpeed Cache」の効果により、一気に 2位に浮上しました。
さくらのレンタルサーバは、唯一の 4秒台ということで速度的には振るわないものの、それでも PHP を CGI モードからモジュールモードに変更することで、約 5秒から約 4秒へと 1秒近くの速度向上が見られました。
一方、速度が低下したのは ConoHa WING、ロリポップ!、mixhost の 3つ。特に ConoHa WING は 1秒近い速度低下がみられています。
この 3つは使用している高速化機能が異なるものの、いずれもキャッシュ機能を利用しており、それが高速化ではなく、遅延につながっってしまった可能性が考えられます。
mixhost については、以前から「LiteSpeed Cache」利用時に測度低下やブレの拡大が見られたため、あまりプラスに働かないのかもしれませんね。
まとめ
以上のように、各社が提供している高速化機能は様々で、その効果にも違いが見られました。特にエックスサーバーは 1秒も高速化されたので、Xアクセラレータやサーバーキャッシュなどの高速化機能は積極的に使用したいものです。
また、ColorfulBox と mixhost はサーバースペックなどがほぼ同じにも関わらず、「LiteSpeed Cache」を利用した際の結果が、ColorfulBox は速度アップ、 mixhost は速度低下、と逆になったのは非常に興味深いですね。
もちろん、収容されているサーバー固有の問題もあると思いますし、ユーザーが利用する WordPress のプラグインやテーマ、広告の量などによっても結果は変わってくる可能性はあります。
ただ、そこは実際に使用してみないとわからない部分でもありますので、できるだけ高速化機能がプラスになる可能性が高いサーバーを選ぶ一つの参考になれば幸いです。